今日はぼくの育った村、芯張村について書こうと思います。
芯張村は××県(編注:霧栄青年は実在の都道府県を記しているが、プライバシー保護のため彼本人に許可を得て都道府県名を伏せて表記する)にあった村です。山と山に囲まれたところにあって、他の町や村からはかなり離れています。
小さな村なので村人もそこまで多くなかったです。確か百人ちょっとだったかな? おじいさんおばあさんが多くて、子供は数えるくらいしかいなかったと思います。
他の町に行くには車やバスを使って山道を下らないといけなくて、学校も村の中にあったから、村の子はみんな友達で仲良くしなきゃいけないって大人の人に言われていました。燈籠様になってからは「神さまだから」ってあんまり遊べなくなったけど、燈籠様になる前はみんなと遊んだことを覚えています。
サッカーが得意で足が速いミナトくん。
花屋さんの子でアニメごっこが好きだったマヤちゃん。
鬼ごっこのときにいつも意地悪してきたシュンくん。
この三人が一番歳が近くて、小さい頃よく遊びました。
ぼくはみんなより歳下で、かけっこも鬼ごっこもかくれんぼもあんまり上手くできなかったけど、大人の言いつけのおかげか仲間外れにせずに遊んでくれました。
でも、ぼくが燈籠様になるって言っても、全然信じてもらえませんでした。シュンくんからは「一番ちびのお前じゃ神さまなんて無理だ」って言われて、マヤちゃんからも「キリエくんにお願い事が叶えられるの?」って疑われて、少し悲しかった覚えがあります。
だから、ぼくが燈籠様になるって正式に発表されたとき、ミナトくんもマヤちゃんもシュンくんもびっくりしてました。どうだ、って誇らしかったけど、それからはみんなと全然遊べなくなったので、ちょっと寂しかったです。
燈籠様になってからは、エリエお姉ちゃんがよく遊んでくれました。
エリエお姉ちゃんはぼくより四つ年上で、チハヤおばあさんの孫です。よくお社に来て巫女になる修行をしていたので、空いた時間にぼくのところに遊びに来てくれました。
エリエお姉ちゃんは頭が良くって、村の子で唯一外の学校に通っていました。だから色んなことを知っていて、チハヤおばあさんに内緒で町のコンビニに売ってるお菓子をくれたり、町や都会のことを教えてくれたりしました。
「他の町にはキリエくんみたいに神さまをやってる子はいないんだよ」
エリエお姉ちゃんはぼくが燈籠様になってからもぼくのことを名前で呼んでいました。
「子供はみんな学校に行くし、キリエくんみたいに一日中お社で修行する子はいないの」
そんなことを教えてもらって、すごく驚きました。神さまがいないんだったら、他の町の人はいったいどうやってお願い事をしてるの、ってエリエお姉ちゃんに聞きました。
「神社に行って神さまにお願いするけど、燈籠様みたいに叶えてくれるわけじゃないんだって。お願いした人が、叶うように自力で頑張るの」
だったら、お願いする必要ないじゃん。変だなあ、って言うと、エリエお姉ちゃんはなんだか悲しそうな顔で「そうだね」って頷きました。
「この村は、他の町とは違うんだろうね――」
エリエお姉ちゃんの話は面白くて、もっとたくさん聞きたかったけど、あんまり外のことを話しているとチハヤおばあさんに怒られてしまうので、大人のいないときにこっそり話すくらいしかできませんでした。
おばあさんや大人の人は、ぼくが村の外を気にするのはあんまり嬉しくなかったみたいです。
えっと、あとは……そうだ、お社に出入りしていた人のことを書こう。
ぼくは普段お社の奥の部屋に住んでいました。お社には巫女やシャムの人(編注:社務のことか)が働きにきていました。ほとんどの人は村にある家から通ってきていたけど、チハヤおばあさんみたいに住み込みでいる人もいました。
チハヤおばあさんは巫女の一番偉い人で、ぼくの……保護者? 後見人? みたいな感じで、親の代わりにお世話をしてくれました。ご飯を作ったり、服とか日用品とかの用意をしてくれる人です。
ちゃんと神さまらしくしなさい、って厳しかったし、苦いお薬を飲めって言うし、作ってくれるご飯は野菜と虫ばっかりでお肉がなかったのが嫌だったけど、たまに凄いご馳走を作ってくれたり、怖い夢を見た日には一緒に寝てくれました。
チハヤおばあさん以外の人とはあんまり話しちゃいけないって言われていたので、他の人のことはよくわかりません。
あ、シゲおじさんがいた。
お社の裏には大きなお花畑があって、シゲおじさんはそこの管理人の人です。花を収穫してマヤちゃんの家の人に渡したり、外の町に売りに行っていたりしました。
よくお社の近くで遊んでいると、作業しているシゲおじさんと会うので、チハヤおばあさんに内緒でお話ししていました。
お社は山の中にあるから、毎日山を上り下りして花の世話をするのが大変そうでした。村には広い土地がいっぱいあるのに、なんで山の中に畑を作るんだろうってずっと不思議に思っていたので、シゲおじさんに直接聞いたことがあります。
「ここの草は特別なんだよ。外では育てられない貴重で高価な花なんだ」
確か、シゲおじさんはそんなふうに言ってました。
「チハヤさんが作る薬の材料にもなるし、大切に育てなきゃいけないんだよ。外の悪い人が知ったら盗みに来るかもしれないから、村の人にもなるべく内緒にしてるんだ。だから燈籠様も、みんなに秘密にしてくれな」
シゲおじさんにそう言われて、なんだか自分がちょっと大人になったみたいで嬉しかったのを覚えています。秘密を教えてくれたのは、きっとシゲおじさんがぼくを頼れる神さまだって認めてくれたからだと思いました。
お花畑は確かに図鑑で見るようなものはなくて、見たことないような花ばっかりでした。とても綺麗でした。
嫌なことや怖いこともあったけど、芯張村の人たちはみんな優しくて良い人ばっかりでした。だから、ぼくはこの村の人たちのことが大好きでした。
けど、みんな死にました。
頭が痛くなってきたので、続きはまた今度書きます。